東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)81号 判決
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〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決には、原告主張の点において判断を誤つた違法がある旨主張するが、原告の右主張は、これを肯認することはできない。すなわち、当事者間に争いのない本願発明の要旨と引用例の技術内容とを比較し、これに本願の明細書及び引用例の各記載内容並びに当事者間に争いのない「液状炭化水素燃料を部分燃焼させて水素及び一酸化炭素を製造することは本願出願前周知の技術であり、この場合、液体燃料の部分燃焼を効率よく行なうためには液体燃料と酸素含有ガスとの接触をよくしなければならないこと及び水素及び一酸化炭素を主成分とする混合ガスは高温度において不安定であることは、化学工業の分野では極めて周知の事実であること」を参酌考量すると、本願発明は、本件審決の指摘する二点および出発原料の炭化水素が気体または固体である場合を含む点において引用例に開示された技術と異なるものはあるが、なお当業者が引用例に開示されたところから容易に推考しうる程度を出ないものと認めるのを相当とすること、まさに本件審決の認定するとおりであり、他にこれを左右するに足る証拠はない。(本願発明は出発原料としてアスファルトのごとき固体をも用いうるとされているが、前掲本願明細書によれば、この種の重い物質は反応室内で噴霧化される前に予熱して液状とされる必要があることが認められるから、その点において引用例と大きく異なるところはない。)
原告は、この点に関し、次のとおり主張する。すなわち、
(一) 原告は、引用例が液体燃料の完全燃焼用バーナーであるのに対し、本願発明は炭化水素の部分燃焼方法に関する発明であり、前者は容易に後者に改変しうるものではない旨主張するが、両者はいずれも燃料と酸素との接触を完全ならしめることを必要とする点で共通性を有し、したがつて引用例のバーナーにおける燃料と酸素含有ガスとの混合の技術が、容易に本願発明に転用されうるものであることは明らかであつて、原告がその主張の裏付けとして挙示する<書証>によるも、ガスの部分燃焼により合成ガスを得るには、反応体を速やかに、十分混合する必要のあることを理解しうるに止まり、原告主張のように、宗全燃焼用バーナーと部分燃焼用バーナーとの関係、あるいは、これらの間の改変の困難さを認めるには足りず、他に前認定をくつがえし、原告の主張事実を肯認するに足る証拠はないから、原告の右主張は採用することはできない。
(二) 次に原告は、本願発明における燃焼室の形状、圧力及び反応条件に関する限定は重要な意味をもち、これらの限定条件により煤を生成することなく部分燃焼を行なわせることを可能にしたものである旨主張するが、本願発明におけるこれらの限定条件がいわゆる臨界的意義を有するものと認めるに足る証拠資料もなく、しかも、煤の発生は反応体の酸素との接触が不十分な場合に起ることは、完全燃焼の場合であると、部分燃焼の場合であるとによつて異なるところのないことは、一般的化学常識上まことに見易いところであるから、その発生を防止するか、できる限りこれを少なくするために、反応体を十分混和接触することを目的としていることは、引用例の場合も同様であるから、本件審決が、この点について、本願発明を引用例から容易に推考できるものとしたことに誤りがあるとはいえない。
(三) 原告は、本件審決は、本願発明の要旨である「二重の中空円錐状の渦」という要件についての解釈を誤り、また、引用例には、このような渦の形成は存しない旨主張するが、前掲本願明細書、とくに添附図面の第一図に徴すれば、右構成要件は、燃料を中空円錐状に燃焼室内に噴霧し、これに同じく中空円錐状に渦状運動をなす酸素含有ガスを導入接触させることを意味するものと解することができ、また、引用例における「室の中心軸上にあつて室の入口に開口する圧力ノズルを通じて液体燃料を圧力によつて噴霧せしめ、回転中心が上記中心軸とほぼ一致する回転運動を与えられた空気を上記噴霧体と接触するように同時に室中に誘導する」ようにすること(引用例が右のような構成であることは、当事者間に争いがない。)が本願発明における「二重の中空円錐状渦」が反応室内に形成されるようにすることと、ほぼ同様の技術的意味をもつものであることは、両者を対比することにより看取しうるところであるから、この点についての本件審決の認定にも誤りがあるものということはできない。また原告は、本願発明においては、前掲限定条件により、その要旨である「二重の中空円錐状渦」の形成を可能にしたものである旨主張するが、その主張するような必然的関係は、これを肯認することはできない(たとえば、反応時間についてみれば、四秒以下の短時間であるという事実は、右「二重の中空円錐状渦」の形成とは―後者により燃料と酸素の緊密な混合が行なわれ反応が促進されるということの他には―直接の関係はなく、反応が完了すれば生成物は不安定であるから、速やかに除去するために、四秒以下の短時間に反応帯域から取り出すようにするものであり、圧力についても、とくに少なくとも三気圧であることが前記の渦の形成のための臨界的要件であると認めるべき資料はない。)。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。
(三宅正雄 杉山克彦 楠賢二)